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指導より大切なのは「合意」だった―自律を生むマネジメントの核心

どれだけ丁寧に指導しても、メンバーの主体性がなかなか育たない――。
その原因は、マネジャーの“関わり方”よりも、もっと根本的なところにあるのかもしれません。
必要なのは、指示や管理ではなく、お互いの想いをすり合わせて生まれる「合意」という土台。
今回は、マグレガーのY理論を手がかりに、“自律を生むマネジメント”の原点を見つめ直します。

 




はじめに:熱心な指導が「空回り」していませんか?

「メンバーの主体性を引き出したい」
そう願って、日々の1on1や進捗確認に力を注いでいるマネジャーが増えてきているようです。

しかし、それだけ熱心に関わっているにもかかわらず、「メンバーが自律的に、あるいは主体的に仕事ができるようサポートしているつもりなのに、どうもうまくいかない」という声を聴くことがあります。

前回の記事では、「やらされ感」を抜け出す鍵が、自己決定理論の3つの基本的心理欲求(自律性・有能感・関係性)にあることを論じました。
では、なぜマネジャーの熱心な「サポート」が、メンバーの「自分ごと化」に繋がらないのでしょうか。

「自分ごと化」を支えるマネジメントの「両輪」

メンバーが3つの欲求(自律性・有能感・関係性)を満たしながら主体的に仕事に取り組むためには、マネジャーによる「2つの重要な機能」が不可欠と考えられます。

(1)スタート地点での「統合」機能: 組織やチームの目標と、メンバー個人の目標や価値観をすり合わせ、納得感のある「合意」を形成すること。

(2)プロセスにおける「伴走」機能: 合意した目標に向かう過程で、日々の進捗を確認し、フィードバック(指導)や支援(感情的サポート含む)を行うこと。

前回の記事で紹介した「お役立ち道」の実践と自己決定理論の3欲求を満たす工夫(裁量の明確化、具体的なFB、日々の対話など)、そして昨今推奨される1on1ミーティングなどは、主にこの(2)「伴走」機能に分類されるでしょう。

問題は、多くの現場で (1)「統合」が不十分なまま、(2)「伴走」だけを懸命に行っている、ということがあるかもしれません。

なぜ「伴走」だけでは機能しないのか?

「メンバーの主体性を高めたい」という思いから、日々の進捗を細かくチェックしたり、1on1で手厚くフォローしたりする。これらは(2)「伴走」機能としては重要です。

しかし、もしメンバーがスタート地点である「目標」そのものに納得していなかったらどうでしょう。 その場合、マネジャーからの手厚い「伴走」は、メンバーにとって「自律性」を支える支援ではなく、「監視」や「過干渉」として受け取られかねません。また、「有能感」を高めるためのフィードバックも、「評価(格付け)」のためのものと捉えられ、防衛的な姿勢を引き出してしまいます。

つまり、(1)「統合」の度合いが低いまま(2)「伴走」を強化しても、それは3つの基本的心理欲求(特に自律性)をむしろ阻害し、「やらされ感」を助長してしまう危険があるのです。

あらためて問う:「統合」とは何か?

では、その重要な(1)「統合」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。

ここで言う「統合」とは、「決まったから従ってくれ」という一方的な指示(トップダウン)でも、「キミはどうしたい?」という丸投げ(ボトムアップ)でもありません。

「私はこう思うんだけど、あなたはどう思う?」とお互いの知恵やアイディアを突き合わせる創造的な対話を通じて、メンバーが「自分もそのプロセスに参加した」「だからこそ意味がある」と感じられるような「納得解」として合意することを指します。

この「創造的な対話」を経た「合意」が、なぜ日々の「伴走」よりも先に来なければならないのでしょうか。

原点回帰:Y理論に学ぶ「統合」の重要性

なぜこの「統合」がそこまで重要なのでしょうか。 ここで、マネジメント理論の古典を築いたダグラス・マグレガー(1966)が提唱した「Y理論」に立ち返ってみましょう。

マグレガーは、Y理論による組織づくりの中心原則は「統合の原則」であると説き(p.56)、さらに、Y理論の考え方によれば、統合が達成されなければ「企業は損をする」のである(p.60)と指摘しています。

ここでいうY理論とは、「人間は、生来は、働くことが好きなものである。」という人間観のことです。

関連動画:Y理論の人間観や組織づくりについて、動画で解説しています。

そして、この人間観に基づくと、なぜ統合(=企業目標への納得)が重要なのかについて、彼はこう続けています。「Y理論によれば、企業目標を納得している程度に応じて従業員は、自発的に自分を命令統制しながらその達成に努力するものなのである(pp.64-p.65)。」

これは、マネジャーであるご自身の経験に照らしても、思い当たることがあるのではないでしょうか。納得できていない目標に対して、私たちはなかなか「自発的」にはなりづらいものです。

この記述は重要です。メンバーが「自発的に(主体的に)」努力するかどうかは、マネジャーが日々どれだけ熱心に指導(命令統制)したかよりも、メンバー自身がどれだけその目標に「納得しているか(=統合されているか)」にかかっている、ということを示しています。

まとめ:「伴走」の前に「統合」の質を問い直す

もし、マネジャーであるご自身が、熱心に「伴走(日々の指導や支援)」をしているにもかかわらず、メンバーの主体性が引き出せないと感じているならば、それは、ご自身の「伴走」スキルが足りないのではなく、その大前提である「統合(目標への合意)」の質、すなわち「納得解」を生み出すための創造的な対話が不足しているのかもしれません。

その目標は、会社や上司から一方的に「与えられた」ものになっていないか?

その目標が、顧客や社会の「お役立ち」にどう繋がるのか、メンバー自身の言葉で語れるか?

その目標の達成プロセスにおいて、メンバーの裁量(自律性)は本当に確保されているか?

日々のマネジメント(伴走)が空回りしていると感じた時こそ、立ち止まり、メンバーと「私たちは、何のためにこの仕事をしているのか」という「統合」の原点に立ち返る勇気が必要です。

真の「自分ごと化」は、管理(Control)ではなく、納得感のある合意(Integration)から始まるのです。

▶参考文献

ダグラス・マクレガー(1966)『企業の人間的側面統合と自己統制による経営』高橋達男訳,産業能率大学出版部,(2004年・新訳48版).

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