
ネガティブ・ケイパビリティと組織風土
「ネガティブ・ケイパビリティ」をわかりやすく知る。解決を急がず、曖昧な状況や不確実性と向き合う力は、チームや組織の成長を支える重要なスキルです。若手社員の小川ひなたの職場でのエピソードを通じて、その価値を探ります。
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今、注目されるネガティブ・ケイパビリティ
先行きが不透明な現代に、前に進むアクセルだけでは、見当違いな解決策や、大切な事だが分からないことは放置し、当面凌げる表面的な解決策を選択したり、それがまた別の問題を生むなど、多くの弊害が考えられます。
そこで、すぐに解決をしようと急がずに、「解決しない心地悪さ」と共に居ながら、一度立ち止まって熟考するというブレーキが必要。そう思っても、それを阻害したり促進したりする組織風土は見過ごせない。
小川ひなたも、日々自分を取り巻く課題や組織風土に直面している。
登場人物:
小川ひなた(25歳・入社3年目):真面目で丁寧な仕事ぶりが評価されるものの、変化や曖昧さに戸惑うことも多い。
田島課長(45歳・上司):顧客対応が得意な一方で、指示が大雑把になりがち。
中村先輩(30歳・チームリーダー):経験豊富で面倒見が良いが、仕事の進め方はざっくり派。
第1話:「また仕様変更…」
急な仕様変更を告げられるミーティング
「お客様から追加要望があり、仕様変更が必要になりました。」田島課長がさらりと言う。ひなたは心の中でつぶやいた。「また急な変更…理由も納期の調整も何も説明がない。」
この職場では、会議で議論が盛り上がることはほとんどない。課長が話す内容を誰もが受け入れるだけで、質問すら出ない。ひなたも「聞きづらいな…」と感じながら、ただメモを取っていた。
ある部分で、「え、仕様変更ですか?」ひなたは思わず声を上げた。
先週やっと仕上げた提案書が、顧客の追加要望でほぼゼロから作り直しになるという。
「仕方ないだろう、顧客からの要望なんだから。」田島課長は肩をすくめた。「納期は変わらないから、よろしく頼むよ。」
納期は変わらない――その一言で、ひなたの頭は真っ白になった。自分のスケジュールも厳しい中、どうやってこの変更に対応すればいいのか。
その後のミーティングでも、課長は具体的な指示を出さない。焦るひなたに、中村先輩が声をかけた。
「小川さん、まずは落ち着いて。こういう時は全部完璧にしようとするんじゃなくて、ゴールを整理するのが先決だよ。」
不確実性への対応
中村先輩のアドバイスを受けて、ひなたは「まず受け入れる」ことから始めた。
仕様変更の背景を確認してみた。仕様変更への対応策として、 何が優先事項なのか、顧客が最も求めているポイントを課長に質問する。
タスクの優先順位を調整する。 すべてを一度にやろうとせず、チームで分担を相談。これってチーム内のコミュニケーションやチームでの課題解決につながりそう。
「なんとか、整理がつきそうです!」ひなたは少しほっとした表情を見せた。仕様変更は負担だったが、「受け入れて観察する」姿勢が少しだけ身についた瞬間だった。
ミーティング後、ひなたは中村先輩に相談する
「先輩、この仕様変更って何が優先事項なんでしょうか?」
中村先輩は笑いながら言った。「そういう時は、課長に直接聞いてみるのが一番だよ。背景を分かれば、どこを頑張ればいいか分かるはず。」
恐る恐る田島課長に質問するひなた。
「あの…顧客が一番重視している点について教えていただけますか?」
課長は少し驚いた顔をしながら、「確かに説明不足だったな。顧客は“実際の使いやすさ”を最優先しているんだ。自社内の調査と一部のエンドユーザーの声も参考にしたらしい。」と答えた。
ひなたは「使いやすさ」を重視した改訂案を作成。次回の会議で共有し、全員が納得して進める体制を整えた。
「最初の一歩を踏み出してよかった。曖昧でも、まず聞いてみることが大事なんだな…」と、ひなたは実感した。
組織風土に関する阻害要素
・現場への情報共有不足
・沈黙する会議(誰も発言しようとしない)
・仕様変更の理由が共有されず、現場が「察して」対応するしかない状況。
・職位や発言リスクを気にして、誰も意見を出さない雰囲気。
組織風土に関する促進要素
・信頼できる先輩の存在
・中村先輩が相談に乗り、次の行動を提案。
・上司との対話ができる雰囲気
・上司への質問によって背景が共有され、ひなたが納得感を持って進められた