
ネガティブ・ケイパビリティと組織風土 ③
誰もが遭遇する沈黙の会議・・・沈黙は悪か?「ネガティブ・ケイパビリティ」をわかりやすく知る。解決を急がず、曖昧な状況や不確実性と向き合う力は、チームや組織の成長を支える重要なスキルです。
小川ひなたも、日々自分を取り巻く課題や企業風土に直面している。
登場人物:
小川ひなた(25歳・入社3年目):真面目で丁寧な仕事ぶりが評価されるものの、変化や曖昧さに戸惑うことも多い。
田島課長(45歳・上司):顧客対応が得意な一方で、指示が大雑把になりがち。
中村先輩(30歳・チームリーダー):経験豊富で面倒見が良いが、仕事の進め方はざっくり派。 佐々木さん(26歳):1歳年上の先輩。控え目な性格。
第3話:「沈黙の会議が苦手だ」
今日は月初の定例会議。今月の目標の確認と業務進捗に関する課題共有や対策が話し合われる。毎月のことでもあり、期末に近づくにつれマンネリ感や閉塞感からか、発言者が少なくなる。
小川ひなたは、沈黙の会議がとても苦手だ。先輩が発言してくれたらいいのに・・・
「何か言わなきゃな。でも的外れなことを言ったらどうしよう。」そう思う・・・
どうしよう・・・
日頃から素直に意見を言うと耳を傾けてくれる田島課長や中村先輩の顔を見ながら、行動してみようと思った。
「皆さん、何かアイデアはありませんか?」
田島課長の問いかけに、会議室は沈黙に包まれた。
時計の針の音がやけに大きく聞こえる。
ひなたは、喉がカラカラに乾いていくのを感じながら、心の中で思う。
「何か言わなきゃ。でも……何を?」
考えれば考えるほど、言葉が出なくなる。
ふと、壁のホワイトボードに視線を移す。そこには今日の議題、「新企画のアイデア出し」とだけ書かれていた。
ひなたの「沈黙」への挑戦」
1.沈黙を受け止めながら、問いを投げかける
沈黙を破ろうとするのではなく、そのまま少し受け止めてみる。
ひなたは、ゆっくりと言葉を選びながら口を開いた。
「…そもそも、この新企画って、どこに一番価値を置くべきなんでしょう?」
誰もすぐには答えない。でも、それは悪い沈黙じゃない気がした。
今度は、田島課長が口を開く。
「なるほど、何を基準にアイデアを考えるべきか、ってことか。」
佐々木さんが小さく頷く。
「そう言われてみると、私たち、いきなりアイデアを出すことに集中しすぎてたのかも。」
2.すぐには答えを出さず、問いを作り出す
「ちょっと、一度整理してみませんか?」
ひなたの言葉に、田島課長がペンを取る。
「じゃあ、企画の目的を3つくらい挙げてみようか。」
メンバーが少しずつ言葉を交わし始める。アイデア出しではなく、「考えるための土台」を作るような時間になった。
議論が盛り上がるわけではない。
でも、確かに、何かが動き始めた気がした。
「すぐに答えを出すことだけが大事じゃない。曖昧なものを、曖昧なまま抱えて考え続けるのも、ひとつの方法かもしれない。」
ひなたは、そう思いながらメモを取る。
「沈黙から考え始めるっていうのも、ありかもしれない。」
「沈黙=悪いこと」じゃなくて、「沈黙=考える時間」になったのかもしれない。
結局、この日の会議で大きなアイデアは生まれなかった。
でも、それでよかったのかもしれない。
ひなたは、少しだけ微笑んだ。
今、注目されるネガティブ・ケイパビリティ
先行きが不透明な現代に、前に進むアクセルだけでは、見当違いな解決策や、大切な事だが分からないことは放置し、当面凌げる表面的な解決策を選択したり、それがまた別の問題を生むなど、多くの弊害が考えられます。
そこで、すぐに解決をしようと急がずに、「解決しない心地悪さ」と共に居ながら、一度立ち止まって熟考するというブレーキが必要。そう思っても、それを阻害したり促進したりする組織風土は見過ごせない。
ポイント
✅ 「沈黙」に価値を持たせる(沈黙=悪ではない)
✅ ひなたの発言も、即効性のある打開策ではなく、問いを投げかける形にする
✅ 結果も「すぐに解決」ではなく、「揺らぎが生じる」にとどめる