
インクルーシブ・リーダーシップとお役立ち道で育むビロンギング
みんな違っても安心な職場を目指して、そのような職場を本当に実現するには、どのようなリーダーシップが求められるのでしょうか。
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DEI施策の壁―「つながり」が生まれにくい理由
最近では、ダイバーシティ推進やDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)施策がどこの会社でも語られるようになりました。しかし実際は、多くの社員が「多様性推進のイベントやプロジェクトに出席しているものの、自分が本当に必要とされているのか実感できない」、また、「組織の一員として認められてはいるけれど、自分の居場所があるという感覚までは持てていない」そんな声を耳にすることがあるかもしれません。
この「受け入れ」と「居場所」の間に横たわる溝を埋めるキーワードがビロンギングです。
そしてビロンギングは、「心理的安全性」と「自分らしさ(独自性)の尊重」が両立してはじめて根づきます。多様な人が集まっていても、一人ひとりが「ここにいていい」と実感できる。そんな職場を本当に実現するには、どのようなリーダーシップが求められるのでしょうか。
※「ビロンギング(心理的帰属感)」については、「ビロンギング~誰もが自然とつながれる職場づくりの実践~」で詳しくご紹介しました。
ビロンギング実現のカギ インクルーシブ・リーダーシップ
では、どのようなリーダーがビロンギングを育てるのでしょうか。
近年の研究では、「インクルーシブ・リーダーシップ」がそのカギを握ると言われています。たとえば、ハーバード大のNembhard & Edmondson(2006)※参考文献参照 は、リーダーが「招き入れる・感謝する・共につくる」行動を示すことで、チーム内に心理的安全性が生まれ、改善や学びが促進されることを明らかにしました。
さらにRandelら(2018)※参考文献参照は、インクルーシブ・リーダーシップを次の3つの行動で具体化しています。
・招き入れる:あまり発言していないメンバーに「○○さんはどう思いますか?」と自然に問いかけて、まだ意見が出ていない人の声にも耳を傾ける
・承認する:発言や行動の価値を具体的に伝える(例:「その視点は今のプロジェクトに新しい風を吹き込んでくれます」)
・安心して挑戦・学習できる場をつくる:リーダー自身が失敗談を共有し、チャレンジを歓迎する雰囲気をつくる
こうしたふるまいが、メンバー一人ひとりの「ここにいていい」という感覚=ビロンギングを下支えします。
なぜ、お役立ち道の文化がインクルーシブ・リーダーシップを支えるのか?
ジェックでは、「お役立ち道の文化」をとても大切にしています。
「お役立ち道の文化」とは、全社が一丸となって「お客様」「その先のお客様」そして「より良い社会」に貢献することを追求し続ける組織文化のことです。
この文化は、日々の行動や意思決定の基準となる価値観と、その価値観に根ざした行動様式によって具体化されます。
そして、この価値観と行動様式が組織に定着した状態を、「集団性格」と呼んでいます。
イノベーションに不可欠な3つの価値観
・お役立ちの価値観:社会や市場の役に立とうとする価値観
・挑戦の価値観:あらゆる可能性にチャレンジしようとする価値観
・協調の価値観:共創し協働しようとする価値観
この「集団性格」が根づくことで、一人ひとりの行動が「誰のための仕事か」「より良い社会の実現にどうつながるか」という「お役立ち」の軸で結ばれます。
リーダーだけが頑張るのではなく、組織全体で「違いを生かし合う行動」が自然と生まれます。ここに、「お役立ち道の文化」がインクルーシブ・リーダーシップを支える最大の理由があります。
たとえば、
・挑戦の価値観があることで、失敗や新しいアイデアにも寛容になり、メンバーの意見や独自性を歓迎できます。
・協調の価値観が多様な視点や立場の違いを結び付け、共に創り出す力となります。
・お役立ちの価値観が「このアイデアはお客様や社会の役に立つか?」という共通言語をつくり、方向性を揃える羅針盤となります。
こうした価値観が組織の「あたりまえ」になっているからこそ、インクルーシブ・リーダーシップも無理なく実践できるのです。
明日からできる「ビロンギング」を育むアクション
ビロンギングやインクルーシブ・リーダーシップは、決して特別なスキルや大げさな取り組みが必要なものではありません。実は、ちょっとした「ひと言」や日々のふるまいから始まります。
例えば、
朝のミーティングで、メンバーが提出した資料に対して「助かったよ。どんな工夫があったの?」と一言添えてみる。これだけで、相手の独自の視点や努力に光を当てることができ、その人が「ここにいていい」と感じるきっかけになります。
また、会議の終盤に「今日はまだ意見を聞けていない方がいれば、ぜひ一言お願いします」と全員に目を向けるだけでも、普段発言が少ないメンバーにとっては自分の声が歓迎されていると感じる重要な瞬間になります。
こうした何気ないアクションが、職場に「違いを尊重する文化」を育て、ビロンギングの芽を大きくしていくのです。
「みんな違っても安心」な職場へ
制度やスローガンだけでは、心のすき間は埋まりません。
「あなたの○○がチームを助けてくれた」、そのひと言が、「みんな同じで安心」から「みんな違っても安心」な職場へのシフトを生み出します。
小さな声掛けが、きっと組織の雰囲気を少しずつ変えていくはずです。
ほんの少しだけ、いつもより相手の「違い」に目を向けてみてください。その一歩が、あなたの職場に新しいつながりの芽を育てます。
参考文献
Nembhard, I. M., & Edmondson, A. C. (2006). Making it safe: The effects of leader inclusiveness and professional status on psychological safety and improvement efforts in health care teams. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 27(7), 941-966.
Randel, A. E., Galvin, B. M., Shore, L. M., Ehrhart, K. H., Chung, B. G., Dean, M. A., & Kedharnath, U. (2018). Inclusive leadership: Realizing positive outcomes through belongingness and being valued for uniqueness. Human Resource Management Review, 28(2), 190–203.
参考