
ビロンギング~「挑戦しづらさ」を越える鍵~ ―コォ・イノベーターが生まれる職場とは?―
この「挑戦しづらさ」をどう乗り越え、挑戦を生み出す文化を育めるか。その土壌は「ビロンギング」から
職場における「挑戦」には、誰しも少なからず「ためらい」があります。新しいアイデアの提案、現状への異議、あるいは未知の業務への一歩。それらはどれも「勇気」がいる行動です。
しかし、いま多くの組織が問われているのは、この「挑戦しづらさ」をどう乗り越え、挑戦を生み出す文化を育めるか――という点です。
ジェックが提唱する「集団性格※」でも、「挑戦・協調・お役立ち」の三つの価値観は不可欠の柱です。特に「挑戦」が根づかない職場では、協調やお役立ちも形式化しやすくなります。なぜなら、「挑戦」がないと、自ら考え・動く姿勢が育たず、「協調」も受け身に、「お役立ち」も表面的な「作業」にとどまりやすいからです。
※参考:理想的な組織文化ってあるの?/リーダーのためのお役立ち道の文化づくり実践ガイド
では、どうすればよいのでしょうか?
挑戦しづらい職場に共通する空気
「失敗したらどうしよう」「ちゃんと評価されるかな」「場の空気を乱さないかな」……。
このような不安が頭をよぎる場面は、誰にでもあります。特に「何が許され、何が許されないのか」が曖昧な職場では、「何も言わないこと」が無難な選択肢として定着してしまいます。
この職場での「何が当たり前か」の規準を、ジェックでは集団規準と呼んでいます。
挑戦が生まれにくい職場では、挑戦を好ましく思わない「当たり前」が根を張っているといえます。
「コォ・イノベーター」が生まれる職場とは?
この空気を打ち破る鍵となるのが、「コォ・イノベーター」の存在です。
コォ・イノベーターとは、ジェックが定義する「変革の協力者」です。リーダーではなくとも、職場の空気を前向きに変える力を持った人のことです。
とはいえ、「そんな特別な人材、うちには…」と思われるかもしれません。
しかし、コォ・イノベーターは「育つ」存在でもあります。その土壌の一つとなるのが、「ビロンギング(組織への居場所感)※」です。
この考え方は、ティモシー・R・クラーク(Timothy R. Clark)による著書『The 4 Stages of Psychological Safety: Defining the Path to Inclusion and Innovation』に基づいています。
ティモシー・R・クラーク 氏は心理的安全性を4つの段階で捉えており※、その第1段階として「包摂の安全性(Inclusion Safety)」を示しています。
参考文献:Clark, T. R. (2020). The 4 stages of psychological safety: Defining the path to inclusion and innovation. Berrett-Koehler Publishers.
※参考ページ:Leader Factor社の公式ウェブサイト
ここでは、「自分がチームの一員であると感じること(=ビロンギング)※」が心理的安全性の出発点であり、これがなければ率直な発言やリスクテイクは生まれないとされています。
つまり、挑戦的行動を生み出すには、まずその人が「ここにいていい」と感じられる土壌づくりが欠かせないのです。
※参考:ビロンギング~誰もが自然とつながれる職場づくりの実践~
では、そのような土壌は、具体的にどのように整えていけるのでしょうか?
「挑戦しづらさ」を乗り越える5つの支援策
先ほどの、参考:ビロンギング~誰もが自然とつながれる職場づくりの実践~の中で、ビロンギングを満たすためには「お役立ち道の人間観」が重要であるとお伝えしました。つまり、人は本来「誰かの役に立ちたい」という意識を持つ存在であり、そこに敬意を持って接することで、「自分の居場所がここにある」と実感できる土壌が育まれていくという考え方です。
今回は、ビロンギングを土壌とし、そこから「挑戦」が芽吹くにはどう支援すればよいのかを、職場の実践から導き出された5つの視点で整理してみたいと思います。
・「挑戦しても大丈夫」と思える「安心感」をつくる「どうせ無理だよね」「反対されるのでは」…そんな声が挑戦の芽を摘み取ってしまわないよう、日頃の声かけや雰囲気づくりで“心理的余白”をつくっておくことが大切です。
・「やってみたい」を歓迎する空気を広げる新しい提案や一歩踏み出す行動に対して、まずは「面白いね」と受け止める文化を根づかせましょう。うまくいくかどうかの前に、「一歩踏み出したこと」自体に価値があると伝える姿勢が求められます。
・小さな挑戦に拍手を送る周囲が「拍手の起点」になれるかどうかが重要です。目立たない一歩にも気づき、「いいね」「助かったよ」と声をかけることで、挑戦の連鎖が生まれます。
・「共に考える」関係性をつくる挑戦を一人の行動に任せるのではなく、「この一歩をどう支えるか」「乗り越えるには何が必要か」を周囲も一緒に考える関係性を育みましょう。挑戦は「個人戦」ではなく、「チーム戦」です。
・当たり前を見直す問いを投げる「なぜそれをやっているのか?」「今のやり方は最適か?」など、日々の会話のなかで既存のやり方に問いを立てる習慣を持つことで、「挑戦」が特別ではなく日常に組み込まれていきます。
小さな一歩でも、それがきっかけで誰かがあとに続くかもしれません。
ためらいがあるなら、それは挑戦の入口かもしれません。今こそ、あなたの一歩目を踏み出してみませんか?
参考記事