
「自律的動機づけ」と「個の確立」/お役立ち道に関する学術的な補足4/5
このシリーズは、以下の記事に出てくる言葉や学術的背景について、詳しくご紹介します。
前回、「お役立ちの精神」を「統合する(自律的に動機づける)」ことが好影響を及ぼす可能性とその留意点についてみてきました。今回は、その「統合」の参考になるジェックの考え方をご紹介します。
▶ 関連個所はこちら >> 上記2/2記事内 お役立ち道を実践するために
※引用元や参考文献は、各[*注釈番号]と、記事下の「参考文献・注記」記載内容を照らし合わせてご確認ください。
「個の確立」とは
ジェックでは、「理念を腹におとし、仕事における『自分自身のお役立ち意識をベースにした使命感』を持って、『自分はこのことでは誰にも負けない。このことでこれだけの貢献ができる』ことを証明するだけの基本的考え方とスキルが確立されている人のこと」を「個の確立」(がされた人)と呼んでいます[*1]。
前回の、有機的統合理論[*2]から見ると、『理念を腹におとし、仕事における「自分自身のお役立ち意識をベースにした使命感」』に焦点を当てた場合、「個の確立」がされている状態とは、「自律的動機付け」(自らの意思で自発的に行動を起こしていると感じている状態)の状態に相当するといえます。
「個の確立」と有機的統合理論
「個の確立」を、さらに、お役立ち道の仕事ぶりを通じたウェルビーイングにつなげるためには、「お役立ち道を実践するために/自分らしく仕事を謳歌するお役立ち道 2/2」でご紹介した、「お役立ちイメージ」(お役立ちの源泉、お役立ち使命、お役立ちビジョンと実現策)と「実践上の5つの心がけ」がヒントとなります。ここでは、それを学術的な観点から整理します。
有機的統合理論では、「動機づけの内在化*を促進させ、自律性の高い動機づけを形成させるためには、自律性と有能感、そして関係性への欲求を満たすことが重要であると仮定されている[*3]。」としています。つまり、仕事の中で、これらの欲求が満たされることで、「個の確立」がされた状態になる(より自律的な動機づけにつながる)ということです。
*「内在化(internalization)」とは、「外発的に動機づけられた活動の価値を自己のものへと取り入れていく過程(他者や外的要因によって左右されている価値から自分のうちにある本来の価値へと変換する過程)[*3]」のこと。
3つの欲求を説明する「基本的心理欲求理論」
そして、自己決定理論の中核となるこれらの基本的心理欲求(自律性、有能感、関係性への欲求)とそれらの充足による効果をまとめた、基本的欲求理論(Basic Psychological Needs Theory)[*3]では、これらの欲求を以下のように表しています。
自律性の欲求:「自分の経験や行動を自らの意思で決定したい」 有能感の欲求:「環境の中で効果的に自分の力を発揮し自分の有能さを示したい」 関係性の欲求:「他者と良好な関係を形成し、重要な他者からケアされたり、また、その他者のために何か貢献したい。」上淵寿・大芦治(2019)『新動機づけ研究の最前線』北大路書房
3つの欲求の充足が及ぼす影響
また、これらの欲求の充足が「ウェルビーイングを高めると考えられている**」とされ、「反対にこれらが満たされない場合動機の内在化は促進されず、イルビーイング***(ill-being)や不健康にもつながる[*4]」とされています。
**より厳密には、「3つの基本的心理欲求が充足され、かつ阻害されていないことが精神的健康を導くと説明されて[*3]」いる。
***「一般的に心身の病理状態を指し、代表的なイルビーイングの指標として抑うつ状態や不安、ネガティブ感情、消耗感などが挙げられる。[*5]」
「個の確立」とウェルビーイングへのヒント
先に挙げた「お役立ちイメージ(お役立ちの源泉、お役立ち使命、お役立ちビジョンと実現策)」を描き、「実践上の5つの心がけ」に基づいて行動することは、自分らしい役立ち方を自分で決定し(自律性)、自分の強みに基づいた行動で自分の力を発揮しやすくするでしょう(有能感)。そして、そのようなお役立ちに基づいた行動を取る人は、周囲からも大切にされ、よりお役に立ちたい想いが強くなると考えられます(関係性)。
「実践上の5つの心がけ」と3つの欲求とのつながり
以下は、「実践上の5つの心がけ」と3つの欲求とのつながりを表したものです。
実践上の心がけ | 自律性の欲求 | 有能感の欲求 | 関係性の欲求 |
|---|---|---|---|
① お役立ち道の仕事ぶりを磨く | 仕事への自発的な意味づけと誇りは自己決定を促進する。 | お役立ちの技能を錬磨し専門性を追求することは有能感を高める。 | お役立ち道の仕事ぶりの錬磨は、仕事の意味づけを促進し、社会と所属組織との関係性を深める。 |
② お役立ち道の人間観****に立つ | お役立ちの意識があることを信じ、独自の素晴らしさを追求することが自己決定を促進する。 | お役立ちに向けた持続的な行動による知恵と能力の拡大は有能感を高める。 | 人は誰も、役に立つ喜び・能力・使命をもつことを前提とした言動は、周囲と良好な関係を構築する。 |
③ 「お役立ち道の文化づくり」のコォ・イノベーターを目指す | より良いチームづくりに向けた役割意識が、そこに向けた自己決定を促進する。 | チームワーク発揮に向けて、強みを活かし合うことは有能感を高める。 | お役立ちに向けたチームワークの醍醐味を味わうプロセスは強い関係構築を促進する。 |
④ 価値共創のパートナーを実践する | 価値創造の無限サイクルを回そうとする共創のプロセスへの参画は、自己決定を促進する。 | 社会とパートナーへのお役立ちとそこに向けた共創のプロセスは有能感を高める。 | 社会へのお役立ちに向けた「共創のパートナー」関係の構築はより関係性の質を向上させる。 |
⑤ 理念統合のマネジメントを実践する | 理念とお役立ち使命の統合は自律的な意思決定を促進する。 | 「お役立ちイメージ」実現に向けたスキルの錬磨とダブル・ループ学習による成長は有能感を高める。 | 自分のお役立ち使命と所属組織との共鳴点の発見と統合は、チームやメンバーへの共鳴につながり関係性を強化する。 |
※株式会社ジェックにて表作成
<補足>「お役立ち道の人間観」と「個の確立」
上記の表にある、「お役立ち道の人間観****」とは、「人間は、本来、人や社会に役立つ喜びや役立つ無限の能力をもっていて、その人にしか成し得ないお役立ちの使命を持って生まれてきているものである」という考え方です。これは、ジェックがお役立ち道経営への変革支援をする上で大切にしている考え方であり、以下のように考えています。
すべての人は、何らかの役立つ使命を持って生まれて来ています。また、周りに役立つことや感謝されることへの希求は、人間本来の欲求であり存在の証そのものです。そして、その使命を果たす仕事をしているときが本人も周りも最も充実し、無限の可能性を引き出し、活き活きと生きることができます。
株式会社ジェック,「ジェックの取り組み」 3.より良い社会を共創する <お役立ち道経営への変革>, https://www.jecc-net.co.jp/about
この考え方を行動理論の三階層で表すと以下のようになります。
お役立ち道に関する三階層 | |
|---|---|
心得モデル | より良い価値を創造しよう |
因果理論 | 自分が創り出したいお役立ちの未来像を意志決定すれば、(因)自らお役立ちの意識と行動を磨くようになり、より良い価値を創造できる(果) |
お役立ち道の人間観 | 人間は、本来、人や社会に役立つ喜びや役立つ無限の能力をもっていて、その人にしか成し得ないお役立ちの使命を持って生まれてきているものである |
「個の確立」をしている人の意欲の源泉は、このような人間観かもしれません。そして、自分と同様に、周囲の人もこのような人間観をもっていることを信じているのではないでしょうか。周囲も自分もその人らしい役立ち方で仕事や人生が充実していれば、それは個々のウェルビーイングにつながるといえます。
このように考えると、「お役立ち道の人間観」は「個の確立」の基盤と考えられます。
以上から、「個の確立」を目指すことは、3つの欲求を満たし、さらに、ウェルビーイングにつながる仕事ぶりといえます。
このように、「個の確立」がされている人は、日々、仕事を通じて社会をよりよくしようとするプロセスの中でお役立ち道を実践し、自分のみでなく、周りの人生を謳歌していくような人間力を持つ人と考えられます。
参考文献・引用
[*1]ジェック(2006),「需要創造型経営への変革」のご提言 CPM経営のご紹介2006年6月改訂版
[*2]Edward L. Deci & Richard M. Ryan
[*3]上淵寿・大芦治(2019)『新・動機づけ研究の最前線』北大路書房
[*4]シンハヨン.,島貫智行 (2021). 向社会的モチベーションの統制的側面―自己決定理論に基づく再検討―. 組織科学, 55(2), 61-73. J-STAGE,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/55/2/55_20210601-1/_article/-char/ja/
[*5]村上達也, 西村多久磨, & 櫻井茂男(2016)家族, 友だち, 見知らぬ人に対する向社会的行動—対象別向社会的行動尺度の作成—. 教育心理学研究, 64(2), 156-169.
👓 当シリーズのベースとなる記事
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