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「自律的なお役立ち」と「統制的なお役立ち」/お役立ち道に関する学術的な補足3/6

このシリーズは、以下の記事に出てくる言葉や学術的背景について、詳しくご紹介します。

前回、「向社会的モチベーション」についてご紹介しました。「向社会的モチベーション」は、「誰かの何かの役に立ちたい」というお役立ちの精神と結びついています。また、向社会的モチベーションには、自律的側面(自らの意思に基づいて自発的に他者の福利増進に動機づけられている状態)と、統制的側面(義務感や羞恥心などの心理的圧力や周囲からの圧力によって動機付けられている状態)があるとお伝えしました。

今回は、これらのことを、お役立ちの精神に基づいて行動することに当てはめて考えます。

▶ 関連個所はこちら >> 上記1/2記事内 お役立ち道とは 

※引用元や参考文献は、各[*注釈番号]と、記事下の「参考文献・注記」記載内容を照らし合わせてご確認ください。


「自律的なお役立ち」と「統制的なお役立ち」

役に立とうとする想いとそれに基づく行動が、「自らの意思に基づくものか」、「心理的圧力や周囲からの圧力に基づくものか」によって好影響を与えるか、悪影響を与えるかが変わる可能性があるといえます。

もし、「義務感や羞恥心、周囲からの圧力」によって周囲や顧客にお役立ちをしようとする場合、自発的に役立とうとする動機の度合いが低いために長続きせず、消耗感などの悪影響を及ぼすかもしれません。

しかし、「自発的に役立とう」とする動機の度合いが高い状態であれば、前回挙げた向社会的モチベーションの好影響(生産性や創造性、ウェルビーイング、組織コミットメントの向上、離職率の低下など)を及ぼす可能性が考えられます。



行動理論改革モデルと向社会的モチベーション

このような2種類のお役立ちについて、行動理論改革モデルのB領域にある「価値観化」から見てみましょう。B領域では以下のように述べています。

  • 人には、DNA、資質、性格などの先天的な部分の影響を背景にしながらも、後天的に学習した知識・技術・感情などの素養から、自分なりの価値観を形成する「価値観化」のプロセスがある。
  • 価値観化には、「取り入れ」と「統合」という二つのタイプがある。― 「取り入れとは、フリッツ・パールズによれば、ルールを噛み砕かずに丸ごと飲み込むことだといえる。また統合とは、ルールをよく噛んで『消化』することであり、これが最適な形の内在化である[*1]。」


「取り入れ」は統制的動機づけ、「統合」は自律的動機づけ

上記、「行動理論改革モデル」図でいう「取り入れ」の状態は、自己決定理論[*2]の下位理論のひとつである有機的統合理論の中で「統制的動機づけ」に分類されます[*3]。これは、「行動を起こすようにプレッシャーや統制感を感じている状態[*4]」を意味します。これに対して、「統合」は、「自律的動機づけ」に分類されます[*3]。これは、「自らの意思で自発的に行動を起こしていると感じている状態[*4]」とされます。

有機的統合理論による「価値観化」のタイプの分類

価値観化

取り入れ(統制的動機づけ)

統合(自律的動機付け)

※株式会社ジェックまとめ

この理論では、「動機づけが自律的であるほど、ウェルビーイングや満足感、生産性などと強く関連することから、より良質な動機づけである[*4]」とされています。そして、先に挙げたように、「向社会的モチベーション」にも、このように「自律的側面」と「統制的側面」があることが確認されました。

つまり、「お役立ちの精神」は、「ルールを噛み砕かずに丸ごと飲み込むこと」(取り入れ)より、「ルールをよく噛んで「消化」すること」(統合)が、より良質な動機づけであり、好影響を及ぼすと考えることができます。



自律的動機づけと心身の健康

注意を要するのは、「お役立ちの精神」が統合された状態であったとしても、健康への留意は欠かせないということです。研究によると、「自律的動機づけが過剰労働(excessive work)と正に関連する」ことが報告されています[*5]。

これは、自分自身の興味や価値観に基づいて(自律的動機づけ)働くことが、多くの時間を仕事に費やす状態(過剰労働)と関連があるということを意味しています。つまり、自分の意志で仕事に打ち込むことが、過剰な労働につながる可能性があるということです。

自律的動機づけがより良質な動機であることは見てきたとおりですが、それが過剰労働につながる場合は注意が必要です。過剰労働は疲労やストレスの蓄積、仕事とプライベートのバランスの崩れなど、健康や生活の質に悪影響を及ぼす可能性があります。適切な休息や自己管理を行い、健康とバランスの取れた生活を維持することが重要です。



参考文献・注記

[*1]引用:エドワード・L・デシ,リチャード・フラスト著, 1999, 『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』桜井茂男監訳, 新曜社, p.127

[*2] 注記:人々が自らの行動や選択を自発的に決定する能力や動機付けの仕組みを説明する心理学の理論(e.g., Deci & Ryan,2000)

[*3]引用:上淵・大芦(2019)『新動機づけ研究の最前線』北大路書房

[*4]引用:SHIN, H.,島貫智行. (2021). 向社会的モチベーションの統制的側面―自己決定理論に基づく再検討―. 組織科学, 55(2), 61-73. J-STAGE, https://www.jstage.jst.go.jp/article/soshikikagaku/55/2/55_20210601-1/_article/-char/ja/

[*5]Van den Broeck, A., Schreurs, B., De Witte, H., Vansteenkiste, M., Germeys, F., & Schaufeli, W. (2011). Understanding workaholics' motivations: A self‐determination perspective. Applied Psychology, 60(4), 600-621.



👓 当シリーズのベースとなる記事

📖「お役立ち道に関する学術的な補足」記事一覧

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